豊田章男さんの言葉はなぜ強い?
あなたの会社では、社長や経営層からのメッセージは
どのように発信されていますか?
そのメッセージは、あなたの心にちゃんと届いていますか?
メッセージの話をする前に、まずはこんな話から。
11月6日にトヨタの中間決算が発表されました。
前年を下回るものの、コロナ禍でも5199億円の営業利益を確保したことは
周知の通りです。
豊田章男さんは私が尊敬する経営者の一人なので、
しばしばトヨタイムズをチェックしてしまいます。
この成果が出された裏で、豊田さんが最初に示したのは
「自動車が日本経済のけん引役になろう」ということだけだったそうです。
半年前、5月の決算説明会でも、多くの日系自動車メーカーが
コロナ禍で今期の見通しを発表しなかったのに対し、
トヨタだけが期末見通しを公表し、
「全世界販売800万台、今期の営業利益5000億円」としました。
結果的には半期で達成してしまったわけですが、
豊田さんは、5月の時点で敢えて数字を公表したことについて、
「トヨタの見通しが自動車産業に関わる方々にとって、
1つの道しるべになるのではないかと考えた」と理由を述べました。
業界のリーダーとしての自覚が伝わってきて、感動すらしました。
さて、社長就任以来、リーマン・ショックでの赤字転落、
大規模リコール問題、東日本大震災、タイでの洪水など、
数々の危機に見舞われながらも、窮地を乗り越えてきた豊田さん。
着実にトヨタを強くして来られたわけですが、
私はそのことと、豊田さんの言葉に強さがあることとは、
無関係ではないと思っています。
豊田さんのスピーチや話には特徴があります。
第1の特徴は、自分の言葉で本音で話していること、です。
たとえば、富士山麓に建設が計画されている「Woven City」の着工日ついて、
「広報からは特定の日は言うなと言われています」と言いながら、自分の思いは
「2月23日である。223は富士山と読めるから」と語ったのもその一例。
また、ロバと老夫婦の寓話を使い、何でも批判するマスコミの姿勢に異を唱えました。
損得で物を考えたら、多くの経営者はしないであろう発言です。
信念に基づいて、率直に話す。それが豊田さんの魅力かもしれません。
第2の特徴は、「意味」を伝えながら「意思」を伝えている、ということです。
比喩や例えが多いのもそのためではないでしょうか。
2014年5月には投資を控え、組織固めをする...という内容を伝えるために、
「意志ある踊り場」という言葉を使っています。
そう言われると、登れますが、登りません、と言っているように感じられ、
単なる守りではなく、むしろ攻めている姿勢に見えてきます。
翌年5月には「トヨタらしさを取り戻すというのは、過去に時間を使うこと」として、
「過去に時間を使うのは自分で終わりにしたい」と語りました。
ここでも意味を伝えています。
今月の中間決算でも、トヨタのひとり勝ちと言われることについて聞かれ、
「一人も勝たなかったら、この国はどうなるのか?」と意味を語り、
「トヨタは確実に強くなった。その強さを自分以外の誰かのために使いたい」
「私は暗い世の中はイヤなんです」として、
世の中の元気の源になるよう存在でありたいと、ご自分の意思を伝えています。
このような豊田さんのスピーチの特徴はどこから来るのでしょか。
もちろん、生まれ持ったセンスというのもあるかもしれません。
でも、それ以上に、信念と経営哲学からメッセージを出すことが
いかに重要か、身を以てご存知だからなのではないかと想像します。
アメリカで学ばれた影響もあるかもしれませんね。
アメリカで学ばれた...といえば、2019年5月、豊田さんは、
母校のバブソン・カレッジの卒業式でもスピーチをし、絶賛されました。
「ドーナツ」というものを巧みに例え話に使っているほか、
ユーモラスな内容で大ウケしていますので、もしお時間があったらオススメです。
https://youtu.be/xDtK6wr-d_Q
さて、メッセージを出す時のあなたの理想はどのようなものですか?
あなたは、経営者かもしれませんし、チームのリーダーかもしれません。
あるいは、社長のスピーチライティングを担当する広報担当者かもしれません。
本音で信念を持って意思を伝えることが1番だとして、2番、3番は何でしょう?
自分の意思を伝えようとしているけれど、自分の言葉ではない、が2番。
前例踏襲でこなしていて、自分の意思を伝えていない、が3番、でしょうか?
思わず我が身を振り返り、2番3番にならないようにしたいと思いました。
「わかり合う」ために不可欠な言葉。強い言葉を持つ人になりたいものですね。
11月も残すところわずかです。素敵な1週間をお過ごしください。
ジェームズ・ボンドは焦らなかった
先月末、初代「007」の主役、ショーン・コネリーが亡くなりました。
彼は、今に続く、息の長いスパイ映画「007」の初代ボンド役として、
その名を確固たるものにしましたが、
ボンド役を卒業して以降も、年を経るごとに味わいのある演技で、
記憶に残る俳優になっていったのではないでしょうか。
「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」とか、「ザ・ロック」とか。
私自身、彼が「007」として活躍する時代をリアルタイムでは知りませんが、
テレビやビデオでショーン・コネリー扮するボンドを見たことはあります。
今見ても驚くほどに「華麗」。それが、ショーン・コネリーのボンドでした。
さて、スパイ映画はお好きですか?
私は、大好きです!
「007」「ミッション・インポッシブル」「ジェイソン・ボーン」...
その魅力は、もちろん物語のハラハラ、ドキドキにもありますが、
主人公である彼らの粘り強さとその知性、
そんなところにもあるのではないでしょうか。
絶対絶命だと思っても、ギリギリまで脳をフル回転させて、絶対諦めない彼ら。
しかも、彼らは決して焦りません。
そんな主人公が、最大の山場を切り抜けた瞬間に、
私たちは感動し、その精神力と能力に脱帽します。
諦めない。
焦らない。
...はスパイ映画の主人公たちの共通点。
そこが多分、スパイ映画のカッコ良さの本質だと思います。
さて、「焦り」について、先日、社内でこんなことがありました。
ある人が「焦り」についてみんなに質問したのです。
「仕事で焦りそうなとき、どんな工夫をしているか?」と。
この意味は、決まった時までにやらなければいけないことがあって、
でも、同時並行でいろんなことがあり、間に合うかどうか不安になって焦る...
そいういう意味のようでした。
そうすると、「『ヤバイ』『ヤバそう』と発する」「計画を練り直す」など
いろいろな声が周りから出てきます。
人は、焦らないためにいろいろな工夫をしているものですね。
それが聞けること自体、有意義でした。
私個人としては、「焦り」の本質は、「できなかったらどうしよう?」という
心理にあると思うので、
「絶対に何とかなる」という自己暗示は結構重要だと思っています。
で、実際、私は、これまで「どうにもならなかったこと」はないので、
「これまでも何とかなったのだから、今回も何とかなる」と言い聞かせます。
加えて、いざとなったらゴールのレベルも変えていいというマイルールがあります。
自分の理想が100だったとして、
時間内に100ができないと判断したら、90に変える。80に変える。
その選択は自分がすれば良い、と。
そんな私の考えも披露しました。
偉そうに話しましたが、かくいう私、苦い「焦り体験」があります。
学生時代のことです。
私はハンドボール部のキャプテンでした。
最後のリーグ戦、想定よりも戦績が悪化して迎えた相手。
互角のつもりだったのに、劣勢に。
試合の終盤、主将の自分が焦ったために負けました。
リーダーの焦る気持ちは、驚くほど場に伝染してしまうんですね。
自分の焦りが、メンバーにも伝播しているということは
試合の途中でも察知できましたが、ではどうすればいいかがわからぬまま、
立て直すことができませんでした。
その悔しさがあったからこそ、それがその後の人生に教訓を与えてくれたようで、
そこから、スパイ映画の主人公のようにとまではいかないまでも、
動じないって大切だなと思って、修業してきた感じです。
というわけで、時として私たちを悩ませる「焦り」。
それを、自分一人でコントロールできて、焦らないで済むなら、
それに越したことはありません。
でも、お互いみんな弱い人間で、時として焦るのは当然です。
そういうことを仲間と共有できて、
「今、自分は焦っているんだ」と言えたら、どれだけラクなことでしょう。
「落ち着こう」と言ってくれる人がいたら、気持ちを切り替えられるかも。
そういう言葉の発し方、
ひとつの健康的な組織のあり方ではないでしょうか。
素敵な1週間をお過ごしください。