駅伝も「言葉の力」?
今年もあと5日ですね。
今さらですが「今年のうちにやってしまいたい」と思っていたことが
全然終わっていないことに気づき、あたふたしております。
先日、テレビをつけたら、青山学院大学の陸上部、
長距離ブロックの監督、原晋さんが出ていました。
原監督といえば、2004年の監督就任からわずか5年で
同学を33年ぶりの箱根駅伝出場に導き、
15年には総合優勝を勝ち取った名監督。
「ゆとり世代をどう伸ばすか」というテーマだったのですが、
「一人ひとりに役割を与える」とか
「基本的なルールはあるが、あとは自由」など、
話の内容が興味深かったので、
最近出版されたばかりの『ゆとり世代の伸ばし方』を読んでみました。
興味深かったのは、監督が「言葉」と
「コミュニケーション力」を重視していること。
たとえば、新しい生徒を部に入れるとき、
面接では「自分の言葉で語ることができるかどうか」を見ていると言っています。
「青学では、私が全部を仕切って指図するというスタイルをとっていません。
コンセプトをポンと選手たちに投げかけ、あとは生徒たちで考えさせるようにしています。
考えて議論できる生徒じゃないと青学では伸びません」と監督。
どんなに陸上で有名な高校出身の生徒でも、基準は同じ。
「うちはこういうやり方なので、そこを理解してくれないと伸びないよ」
と伝えて、それでも入りたいという子に入ってもらうのだそうです。
読み進めて、それもそのはず!と思いました。
原監督の指導、言葉のやりとりがスゴい!
「言葉」と「コミュニケーション力」がないと、
やっていけないだろうと思います。
たとえば、監督の指導法の大きな特徴として挙げられるものに
「目標管理シート」と「目標管理ミーティング」があります。
「目標管理シート」は、部員一人ひとりが毎月書いて提出するもの。
チームのテーマ、それに応じた個人のテーマ、個々の目標と
それを達成するための具体策を書かせているそうです。
「目標管理ミーティング」は、
ランダムに選んだ6人のグループで「目標管理シート」に書いたことを発表し合うミーティング。
レギュラーも補欠も故障者もバラバラのメンバーで議論するといいます。
激しい議論になることもあるそうですが、
立場が違う部員同士の理解が深まって、一体感が増すのだそうです。
これを月に一度行っているのですから、
自分の言葉で自分のことを語る力は必須ですよね。
それと「朝の一言スピーチ」。
毎朝一人ずつ1~2分、何でもいいので皆の前で話すのだそうです。
56人の部員なので、1カ月半に一度回ってくるそう。
先日は、理工学部の生徒が、
「実験前には前もって容器を温める、または十分に冷やすということをしないと、計測に誤りが出る。
陸上も同じで、ウォーミングアップを怠るとパフォーマンスに影響する」 という話をしたのだそうです。
こうして、言葉やコミュニケーション力を高めているのは、
考える力と発想力を持ってもらいたいからだと監督は言います。
「練習内容だって、自分で考えて新しい発想を入れていかないとマンネリ化します。
箱根駅伝も『優勝』と言っているだけでは発想が新しくならない。
ミーティングでは、箱根駅伝、もっと言うと陸上界を盛り上げていくにはどうすればいいか、
君たちのアイデアを教えてくれよと言っています」。
一人ひとりが自分で考えたことを言葉にして、
それを口に出し、話し合っているから、
練習一つにしても、大会に臨む姿勢にしても、
納得度が高いのでしょうね。
納得してのぞむと、やる気が出るし、多少のことではへこたれなそうですよね。
なるほどなあと思いました。
と同時に、
そうか、目標管理シートを作っていれば、
年末に山のようにやり残したことに気づくなんてことはなかったかも、なんてことも思いました。
来年の箱根駅伝、ますます楽しみになってきましたね!
野人は「書いて」目標を叶える
「生真面目な男は、あまり仕事ができない。
不真面目な男には、仕事を任せられない。
最も頼りになるのは、真面目な野人である」
という帯に惹かれ、『野人力』という本を読みました。
『リング』、『らせん』の著者であり、
自らを野人と呼んでいる鈴木光司さんが、
娘に「生きる力」を伝えるというスタイルで書いたものです。
真面目な野人は、考えがぶれることがありません。
そして、一度設定した目的を叶えるために懸命に努力します。
野人は「体験」を重視するので、
目標達成のための手法が多少荒っぽいのですが、
真剣にゴールに向かって行きます。
鈴木さんは、10代の時に3つの目的を設定しました。
(1) 初恋の一目惚れの女の子を自分の妻とすること
(2) 自力で太平洋を横断すること
(3) 小説家として身を立てること
(1)は、小学5年生のときに転校してきた女の子を一目見て
「将来の妻がここにいる!」と思った瞬間に設定した目標だそうです。
中、高、大と片思いし、25歳くらいから直球で自分を売り込み、
断られるもめげずにプレゼンテーションしまくって見事目標達成。
途中、様々な女性とのつきあいの中で
コントロール力を磨いた結果ということです。
(2)は、小学校の卒業文集に書いた目標。
小説が売れずに苦労した時代に免許だけ取り、
ベストセラーが出るやいなやヨットを購入。
何の経験もないのに、家族を連れてまず横浜・初島間の航海へ出発。
その後も数々の航海での失敗から多くを学び、
着々と太平洋横断に向けて準備しているところとのこと。
(3)を叶えるのは一番大変だったようですが、
まず大学を文学部に絞り、
劇団でシナリオを書くという修行をし、
シナリオセンターに通ってどんどん書いて、
よしと思った内容を友人に話してリアクションを見るなど、
とにかく小説家になるための努力を続けます。
『リング』ができあがったのは32歳のときだったそうです。
鈴木さんが、真面目な野人として目標を叶えるために用いていた手法があります。
それは「書くこと」。
「目標を決めたら、そこに至るまでの道筋を文章で表現する。
書かれた文章に、他力本願と、論理的な矛盾がなければ、目的は実現する」
と、言っています。
論理的整合性のある文章が書けたなら、行動する。
その積み重ねから幸福はやってくる、と。
鈴木さんは、野人でありながら作家ですもんね。
いや、確かにそうだなあと思いました。
道筋をきちんと書けたなら、あとは実行すればいいだけ。
逆に言うと、書いているときに、「そんなわけないだろう!」と思ったことは、
いくら野人でも実行に移せないということですね。
正確に言葉にする。文章にする。筋を通して。
この大切さを改めて感じました。
正しい言葉で書かれた筋の通った文章は、強いのです。
これは、普段仕事をしていても感じます。
物語であっても、インタビュー原稿であっても、
単なるお知らせの文章であっても。
もっと勉強して、もっと書かなきゃ、と思うと同時に、
30歳を超えた頃にしまいこんだ野人力をそろそろまた
引き出したい気持ちになりました。
『野人力』、なかなかおもしろい本でした。