「羨ましい!」と認めてみる
ドラマ『下町ロケット』の新シリーズが放送されています。
このドラマは、優れた技術力を持つ小さな町工場「佃製作所」が、
大企業の圧力に屈することなく、力を合わせて前進する物語。
池井戸潤氏による大人気作品です。
大企業からの執拗な嫌がらせ。次から次へと襲ってくる苦難。
悪い人がとことん悪くて、正義がとことん美しい。
前作に続き、やはり引き込まれてしまいます。
さて、『下町ロケット』で起こる様々な出来事の根底には、
大企業の「小さな町工場のくせに生意気な!
技術力なんて大したことないだろう!
俺たちに勝てるわけがないんだ!
という気持ちがあります。
「妬み」「嫉妬」です。
そう捉えると「佃製作所の高い技術が羨ましい。
社員が社長を信頼し、全力でものづくりに励んでいる環境が羨ましい。
自分は大企業で人間関係に悩み、いつも何かを我慢して過ごしているのに!」
と言い換えられるかもしれません。
そして、こうした「妬み」や「嫉妬」は、
多かれ少なかれ、私たちの職場にも存在しています。
陸上自衛隊の心理幹部として長年カウンセリングを行ってきた
カウンセラーの下園壮太氏によると、
「妬み」や「嫉妬」という感情は本能であり、
「期待」と「比較」という原始のころからの本能的なプログラムから
成り立っているのだそうです。
「期待」のプログラムとは、
自分のパフォーマンスに対する報酬を予測するもの。
この木に登ればこのくらいの木の実がとれた、という
過去の経験と照らし合わせ、予測より実際の収穫が少なければ、
別の場所に行く、自分の技を高める、といった対処につなげることができます。
そして「比較」のプログラムは、グループで同じ労働をしたとき、
自分の「取り分」は人と比べてどうかを常にチェックするプログラム。
人は、こうした期待と比較のプログラムによって自分の状況を見定めていて、
おかしいときには「妬み」「嫉妬」というアラームが発動するように
できているのだそうです。そして、このアラームにより、
自分のパフォーマンスを高める行動が生まれるのだといいます。
つまり、本来はプラスに働く感情なんですね。
ではなぜ現代では、妬みがマイナスに捉えられるのか。
大きな要因の一つは「情報過多」だと下園氏は指摘しています。
成長の目標として役立てられない「理想の人物像」を描いてしまい、
それを自信喪失の材料にしてしまうことが多いのだとか。
いったん自信を失うと、人はそれ以上自信を失うことを恐れて
自分を守ろうとし、その結果、周囲を責めるようになるのだそうです。
「自分の置かれた環境の不憫さをあげつらう」
「恵まれているのに不平不満を言う」
「その人なりによくできているのに、自信を持つことができない」
「ライバルを妬んでばかりで自分は行動しない」
まさに、『下町ロケット』です。
では、どうすれば、このつらい状況から脱することができるのか。
下園氏は「意識を向ける方向性を変えていく」ことが必要になると言います。
具体的には、まず「妬みの感情を認めてしまうこと」。紙に書き出すなどして、
「何を妬んでいるのか」を冷静に分析することが第一歩だそうです。
その上で現状と向き合い、
「こうなりたいな」と思うイメージをしっかり描き直す。
そこから、努力できそうなポイントを探していき、
最終的に行動につなげていくのだそうです。
「妬み」や「嫉妬」は人間に備わっている自然な感情。
だから、それを感じたときは気持ちを無視するのではなく、
向き合うことが必要なんですね。『下町ロケット』で考えると、
「佃製作所、羨ましいぞー!」と認めてしまえば
ドロドロの嫌がらせに発展しないということです。
いや、そうなるとドラマになりませんね。。。
This Is Me
映画『グレイテスト・ショーマン』の挿入歌
『This Is Me』を歌って話題になった歌手の
キアラ・セトルさんが来日していました。
『This Is Me』は2018年ゴールデングローブ賞ベストオリジナルソング部門を受賞し、
さらにアカデミー賞のベストオリジナルソング部門にもノミネートされた曲。
来日中に出演したいくつかのテレビ番組では、
キアラさんの圧巻のパフォーマンスが観られました。
『グレイテスト・ショーマン』は、
19世紀に実在したP・T・バーナムという興行師の半生を描いた映画です。
彼は、さまざまな個性を持ちながら、
目立たない場所で暮らしていた人たちにスポットを当て、
誰も見たことがないショーを創り上げます。
『This Is Me』は、ショーに抜擢された彼らが
「これが、私」と訴える曲です。
キアラさんが、映画の出演者の前で初めてこの曲を歌ったときの映像が
「ビハインドストーリー」として残っています。
心の誇りは失わない
居場所はきっとあるはず
輝く私たちのために
言葉の刃で傷つけるなら
洪水を起こして溺れさせる
私には勇気がある
傷もあるけれど
ありのままでいる
これが私
『This Is Me』の歌詞の重さに押し潰されそうになり、
みんなの前で歌うのが怖かったというキアラさん。
自信を持って歌い上げているように見えますが、
実は歌いながらも震えが止まりません。
そんな彼女が思わず差し出した手を、
主演のヒュー・ジャックマンが涙を浮かべながら握り返し、
会場全体のボルテージが一気に上がる様子はとても感動的で、
何度観ても涙が出てきます。
さて先日、長男の中学校の先生がこう言いました。
「この学校の子どもたちは、自己肯定感の数値がとても低い。
なので、彼らが自信を持てるような声かけをお願いします」
あー、もったいない。情けない。
そんな複雑な感情になりました。
これから未来を作っていく子どもたちが
自信をなくしてしまっているなんて、もったいない。
そして、彼らがそうなってしまうのは、
大人の接し方や社会の受け入れ方が影響しているだろうと思うから、
情けない、、、。
2014年に内閣府が実施した、意識調査があります。
対象は、日本を含めた7カ国の満13~29歳の若者です。
(ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、スウェーデン、韓国)
これによると、「自己肯定感」の観点では、
「自分自身に満足しているか?」の質問に対して、
「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した者は、
日本以外の6か国は70~80%だったのに対して、
日本は4割強で最も低い結果でした。
この結果は若者に限ったことではありません。
世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップ社が、
2017年に実施した従業員のエンゲージメント調査では、
日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことがわかりました。
米国の32%と比べて、大幅に低く、
調査した139カ国中132位と最下位クラスでした。
ベストセラー『最強の働き方』『一流の育て方』の著者
ムーギー・キム氏がトークイベントで
自己肯定感の基本についてこう語っています。
「自己肯定感が高いビジネスリーダーたちの話を聞いていくと、
ある共通する項目があることに気づきました。
それは、
『自分軸で生きている』『自分の価値観で生きている』ということです」
何ができるかではなく、何がしたいか。
自分の価値観で、自分で選ばなくては、
モチベーションは上がらず、
自己肯定感は高まらない。
モチベーションに必要なことはオーナーシップだとキム氏は言います。
なるほど、そうだなと思いました。
「できそうだからやる」「言われたからやる」
「与えられたからやる」には限界があるなあと。
うまくいっているときはいいですが、
困難にぶつかったとき、
自分以外の何かのせいにしてしまうだろうな、と思います。
一方、「自分で選んだ」「自分の意思でやっている」と思えている、
自分軸で生きている人はやはり強い。
スポーツのチームや、企業レベルで考えると、
とんでもないパワーの違いです。
では、自分軸で生きるためには何をすればいいか。
そんなことを考えていたら、普段何気なく口にしてしまいそうな言葉に、
自分軸で考えることを否定するような発言が結構あることに気付きました。
たとえば、「いいから、とにかく言われた通りにやる」とか
「そんなこと無理。できるわけないよ」とか、、、。
他者に対しても、自分に対しても、そんな発言をしていたら、
自己肯定感は上がらない。
This Is Meなんて言えるはずがないと思います。
なので、まずは日々の言葉や行動の一つひとつを
もっと意識しなくてはなと思いました。